「光」で韻を踏む——意味が噛み合いすぎる語
「今日の韻」のテーマ、今週は「光(ひかり)」です。前回の「心」と比べると、韻の踏まれ方がかなり性格の違う語でした。
「心」とは真逆の語形
「心(ココロ)」は母音列が「o・o・o」という反復を持つ語でしたが、「光(ヒカリ)」は「i・a・i」で、母音の反復はありません。この違いが、韻の相手の顔ぶれをまるごと変えます。
Raimzで「光」を引くと、完全韻(全モーラの母音列が一致する語)は393語あります。ただし語ページの画面には上限の120語までしか表示されないので、実際に /w/光 を開いて数えても393にはなりません。「心」の113語がそのまま画面の実数だったのとは対照的です。
もう一つ大きな違いがカタカナ語の比率です。「心」は完全韻のうち42%がカタカナ語(ノート・コード・モードなど)でしたが、「光」はわずか2%(リバティ程度)。その代わりを埋めているのは、漢語の2字熟語です。期待・機会・時代・次第・支配・議会・視界・理解・未来・偉大——「キ・タイ」「ジ・ダイ」「シ・カイ」という音読みの構造そのものが「i + ai」を大量に生み出しています。「心=和語とカタカナの混在」に対して、「光=漢語の海」と言っていいくらいの違いです。
意味まで噛み合ってしまう語たち
「光」の完全韻を眺めていて一番驚くのは、音が合うだけでなく意味的にも「光」と自然に繋がる語が異常に多いことです。
- 未来(ミライ) — 「光」と「未来」が韻を踏む。歌詞にしてもそのまま使える組み合わせです。
- 誓い(チカイ)
- 祝い(イワイ)
- 慈愛(ジアイ)
- 時代(ジダイ)
- 兆し(キザシ)
- 日差し(ヒザシ)
- 偉大(イダイ)
「心」の記事では、和語は意味的に近く、外来語は意味の飛躍が必要という形で語群がきれいに分かれていました。「光」はそうではなく、上位に来る語のかなりの部分がそもそも「光」と意味的に噛み合ってしまいます。韻を踏むために言葉を選んでいるはずが、選んでいるうちに元から光と縁のある言葉に辿り着く——そういう感覚に近いかもしれません。
和語もいくつか拾えます。額(ヒタイ)・東(ヒガシ)・南(ミナミ)・左(ヒダリ)・岬(ミサキ)・雲雀(ヒバリ)・稲荷(イナリ)。
当て字は5通り。緋火璃・飛牙利・火華理・妃嘩離・日加里。「緋火璃」は特に、光をそのまま漢字の火偏で表しているような字面です。
似た音の語には、左(ヒダリ)・怒り(イカリ)・雲雀(ヒバリ)・錨(イカリ)などが並びます。
他言語版の「光」——語の選び方で桁が変わる
ここは書き方に注意が必要な章です。「光」に相当する語は、どの言語でも1つとは限りません。同じ意味圏でも、どの語を引くかで完全韻の数が大きく変わります。
- 韓国語 — 光そのものを指す빛は完全韻7語。ここに拾い物があります。빚(借金)が韻を踏む相手として出てくるのです。綴りは1字違いですが、終声中和で発音がほぼ重なるため。「光と借金が韻を踏む」というのは、そのままパンチラインに使えそうな組み合わせです。漢字語の광(光)だと完全韻は4語(왕・황など)。
- インドネシア語 — cahaya(光)は56語、terang(明るい)は36語、sinar(光線)は14語。同じ「光」の意味圏でも語によって数がかなり違います。
- ヒンディー語 — रोशनी(74語)、उजाला(106語)、प्रकाश(5語)。同じ言語・同じ「光」でも、語の選び方だけで5語から106語まで振れます。
- ベンガル語 — আলোは99語。
- タガログ語 — ここが一番はっきりした例です。liwanagは完全韻がわずか2語。一方、同じく「光・灯り」を指す短い語ilawなら9語、tanglawなら15語まで増えます。「心」の記事で書いた「日本語とヒンディー語で韻キーの定義(母音列のみか、子音まで含めるか)が違う」という論点を、今度は同じ言語の中の語選びの差として体感できる例です。
多言語での「光」を見るときは、「この言語の光は◯語しかない」と言語全体の性質のように語らないことが大事だとわかります。実際には「どの語を引いたか」の差でしかないことが多いからです。
まとめ
「光」は「心」とは対照的に、母音の反復ではなく漢語の音読み構造が韻の相手を規定していました。そして何より、音が合う語の多くが意味的にも「光」と自然に手を結んでしまう——そんな語でした。気になった方はぜひRaimzで「光」を検索してみてください。