「声」で韻を踏む——同じ漢字の中の80と589
「今日の韻」、今週は「声(こえ)」です。今回はこれまでのどの記事とも違う場所に、一番大きな驚きがありました。語の外ではなく、語の中にです。
同じ「声」の中に、80と589
「道」の記事で、ミチ・ドウ・タオという3つの読みによって完全韻の数がまるごと変わることを紹介しました。「声」にも読みが2つあり、これがそれ以上の差を生みます。
声(コエ)——完全韻は80語。5記事の中で最少です。 声(ショウ)——完全韻は589語。7倍以上の開きです。
これまでの記事で「同じ意味の語でも、選ぶ語によって韻の相手の数が桁違いになる」という現象を何度か紹介してきました。タガログ語のliwanag(2語)とilaw(9語)、ヒンディー語のमार्ग(0語)とरास्ता(262語)。ただしそれらは、いずれも「別の語」を比べた話でした。「声」はそうではありません。同じ漢字1文字の、同じ語の中にこの差があります。読みを変えるだけで、韻の相手が80から589に跳ね上がる——これまで他言語でしか示せていなかった現象が、ここに来て日本語の中でも起きていたことになります。
以下、この記事では「コエ」読みを主役にします。母音列は「o・e」。これは日本語としてはやや珍しい組み合わせで、そのぶん完全韻の相手が5記事中もっとも少なくなっています。画面の表示上限(120語)にも達しない、80という実数です。「心」以来2例目の、画面に出ている数がそのまま真の総数という語でした。
声 ≡ 肥(こえ)
「道」の記事で、「道」と「未知」が読みの完全一致だったことを紹介しました。「声」にも同音異義語が1件あります。
肥(コエ)——肥やし、下肥のことです。
「道≡未知」は、意味までまっすぐ繋がる出来すぎの組み合わせでした。「声≡肥」は、その裏側です。音は完全に一致しているのに、意味的には持ち上げにくい相手が来ることもある。同音異義という現象そのものは中立で、意味が噛み合うかどうかは完全に運次第なのだと、この2つを並べるとよくわかります。
意味は乏しいが、音は面白い
「声(コエ)」の完全韻80語を眺めると、正直なところ「光」の未来・誓い・祝いのような、意味がまっすぐ繋がる語にはあまり出会いません。惚け・オケ・オペ・コネ・ロゼ・ロケ・延べ・桶・嫁・寄せ・寄席・後手・骨・袖・苔・土手・肥・尾根・米・俺・染め——音は合っていても、意味的な距離はそれぞればらばらです。
その中で拾えるのは、俺(オレ)——ラップの一人称としてそのまま使える語。骨(ホネ)——身体の語彙。そして非常用ですが、超え・越え(ゴエ)は「声を越え」という言い回しがそのまま成立する、韻としても意味としても相性の良い相手でした。
漢語の熟語もほとんど乗ってきません。o-e という母音は日本語の音読みと相性が悪く、「道」や「火」で見られたような漢語の厚みはここには生まれませんでした。
韻は痩せているが、隣の層は厚い
「声」は完全韻の相手こそ少ないものの、Raimzが持っている別の層——類義語・修飾語・例文——がこの語では珍しく充実しています。
類義語には音声・ボイス・声音・サウンド・音響・発声・一声・響きなど。修飾語には大きな・低い・美しい・甲高い・優しい・甘いといった語が並びます。声は、韻を踏む相手こそ多くないものの、人がどう形容するかという層では豊かな語でした。「大きな声」「低い声」「優しい声」——韻の相手を探すのとは別の角度からでも、「声」という語に近づく道はあります。
他言語版の「声」——0語がまた出た
- 韓国語 — 소리(音・声)は157語。목소리(声)は複合語のため見出しがなく、単独の見出し語としては収録されていません。
- インドネシア語 — suara(34語)、bunyi(音・47語)、nada(音調・125語)。
- ヒンディー語 — आवाज़はわずか3語、常用語に限れば0語。一方ध्वनिなら291語です。「道」で見た0語の現象が、常用語という条件付きながらまた出てきました。
- ベンガル語 — কণ্ঠ(109語)、স্বর(14語)。
- タガログ語 — bosesは完全韻0語。これはスペイン語由来の借用語(voz)で、現地の音韻パターンから外れているために韻を踏みにくいと考えられます。一方、固有語のtinigなら10語あり、そこにはhimig(旋律)が韻の相手として含まれています。声と旋律が韻を踏む——第1回の마음×가슴、前回のapi×hatiに続く、意味的にも噛み合う組み合わせがここでも見つかりました。
まとめ
「声」は、同じ1つの語の中に80と589という7倍の差を隠していました。同音異義語の相手は肥やしで、完全韻の中に意味の噛み合いはあまり見つかりません。それでも修飾語や類義語という別の層に目を向ければ、「声」がいかに豊かに描写されてきた語かが見えてきます。気になった方はぜひRaimzで「声」を検索してみてください。
この記事は「今日の韻」シリーズの週替わりテーマ「声」を掘り下げたものです。次回は「自由」を予定しています。